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サブ:そういや兄ちゃんの名前聞いてなかったよな
北村:北村だよ、北村大輝
サブ:大輝か、いい名前だな
北村:そうかなぁ?ありふれた名前だと思うけど
サブ:いや、いい名前だ
北村:ふーん、そっか、ありがと
北村が小さく微笑む。
あれ・・・。
ふと遠くを見ると、公園の反対側のベンチに小さな人影が見える。
子供だよな、あれって。
どうやら二人はまだ子供の存在には気付いてないみたいだ。
ここで俺の中の天使と悪魔が話し始める。
天使:早く二人に知らせなきゃ!こんな時間に子供が公園にいるなんて普通じゃないよ!放っておくなんて大人として間違ってるよ!
悪魔:待て待て、これ以上面倒なことを増やしてどうする、見ず知らずの子のためにお前の大切な時間を使う必要なんてないだろ
天使:悪魔は黙ってて!
悪魔:お前こそ黙れ!
・・・どうすりゃいいんだよ。
悪魔:素直に楽な方を選べばいいじゃねーか
天使:子供を見捨てるなんて絶対ダメだよ!
サブ:どうした、和希
月島:へ?
サブの言葉で現実へ引き戻される。
サブ:一人でうつむいてるからどうかしたのかと思ってよ
月島:あ、いや、別になにも・・・
サブ:そうか?だったらいいんだけどな
よし、決めた、黙ってよう。
見知らぬ子供がどうなろうが知ったこっちゃない。
俺は終電逃してまで仕事して疲れてるんだから、これぐらい神様も許してくれるはずだ。
うん、そうだ、そうに違いない。
俺は何も悪くない。
北村:あれ?
サブ:どうした
北村:僕、目悪いからよく分からないんだけどさ、あそこに誰かいない?
サブ:お、おい!あれは子供じゃねぇか?こんな時間になんで子供が公園にいるんだ?
月島:き、きのせいじゃない?ほら、だって全然動かないし
おい、マジか、せっかく俺がスルーしようとしてたのに。
サブ:いや、手元の明るいところが動いてる、やっぱり子供だ、ちょっと行ってくる!
北村:いってらっしゃーい
月島:え、ちょっと!!
サブは人影の方へ走って行った。
・・・なんでお前らはどうでもいいことに首を突っ込むんだよ。
もし警察沙汰になんてなったらどうするんだよ。
こんな時間に子供が公園にいるなんて何かあるに決まってるだろ。
北村:今何考えてたの?
月島:え、いや、何も
北村:また面倒なことが増える、最悪・・・とか考えてたでしょ?
月島:そ、そんなこと考えてるわけないだろ!
北村:そう?顔がそう言ってるけど
月島:はぁ?なんでそんなこと分かるんだよ
北村:さぁね、なんとなく
月島:なんだよそれ
北村:んじゃ僕らも行こっか
月島:・・・あぁ
ベンチに着くと小学生らしき女の子がひたすらノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいた。
サブ:さっきからずっとこの調子なんだよ
北村:へー、凄い
サブ:話しかけても全然答えてくれねぇしよぉ、困ってるんだよ
月島:こんばんは、名前はなんていうの?
女の子:涼香
サブ:お、答えた!なんで俺じゃダメなんだ・・・
そりゃ急に怪しいオッサンが話しかけてきたら誰でもビビるだろ。
それにしても話してるときすらパソコンの指が止まらないってどうなってるんだ。
北村:涼香ちゃんか、涼香ちゃんはなんでこんな時間に公園にいるの?
涼香:仕事
北村:涼香ちゃんは仕事してるの?
涼香:そう
なんだ仕事って、なんで小学生がこんな時間に公園で仕事してんだよ。
北村:お母さんかお父さんは?
涼香:いない
月島:いないの?
涼香:うん
月島:じゃあおうちは?
カタカタカタカタ・・・。
どうやら答えたくないときは無視するらしい。
北村:どうしようかなぁ
月島:パソコンで何やってるの?
カタカタカタカタ・・・。
クソッ。
北村:あ、そうだ、チョコレートいる?
涼香:チョコ・・・レー・・・ト?
突然指が止まる。
涼香:ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい!チョコちょうだい!!
次の瞬間、涼香は猛烈な勢いで北村に詰め寄ってきた。
涼香:早く早く!チョコちょうだい!チョコ、チョコ!
涼香はキラキラした目で北村を見上げている。
北村:ちょっと待ってね
ポケットから板チョコを取り出す。
北村:はい、どうぞ
涼香:やったぁ!
そう言うと涼香はむしゃむしゃ必死にチョコを食べ始めた。
月島:やっぱり子供だな
サブ:そうだな
この言葉で涼香が固まる。
そしてギロッと俺たちの方を睨みつけた。
サブ:あぁー、すまん、すまん、仕事してるんだもんな、子供じゃないよな、悪かったよ
月島:な、なんだよ
涼香はプイッと俺から目をそらす。
俺たちはお前のことを心配して来てやったんだぞ。
なのにその態度はどういうことなんだよ。
北村:チョコ美味しい?
涼香はコクリとうなずく。
北村:よかった
北村は凄く嬉しそうだ。
サブ:これからどうするよ
北村:これも何かの縁だね、誘拐でもしちゃおうか
サブ:おいおい、いくらホームレスでも犯罪者になるのはごめんだぜ
北村:ダメかぁ
ダメに決まってんだろ。
北村:じゃあ月島の家に連れて行く
月島:バカかお前は、できるわけねーだろ、ってかそれもほぼ誘拐だろが
北村:そうか、じゃあどうする?
サブ:なんか案はねぇか、和希
月島:知らないよ!
北村:他人のアイデアは否定するのに自分のアイデアは出さないんだね、それって無責任じゃない?
月島:はぁ?ちょっと待てよ
月島:そもそもお前ら二人が面倒なことに関わるからこういうことになるんだろが!
・・・しまった・・・勢いでつい・・・。
北村:ふーん、それが本音なんだね
北村:わかった、僕が朝まで付き合うから月島は帰っていいよ、お疲れ様
月島:なんだよそれ!俺は何も間違ったこと言ってないだろ!
北村:だからもう帰っていいって言ったじゃない、帰りなよ、ゆっくり休みたいんでしょ?
サブ:悪かったな、和希、そりゃ面倒だよな、こんなこと
サブ:あとは俺たちでなんとかするからよ、帰ってゆっくりしてくれ
ふぅー・・・・・・。
俺は大きく息を吐いた。
月島:・・・わかった、帰るわ
サブ:それがいいな
北村:さようなら
つづく。
本当はこうした方がいい。
その天使の声を無視したとき、僕らは殻に閉じこもる。
悪魔はいつもフレンドリーだ。
殻とは、悪魔との関係性である。
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